米アップルの空間コンピューティング端末「Apple Vision Pro」の開発チームが解散したのではないか――。今週、こうした報道が流れ、業界に波紋を広げた。販売台数の低迷を理由に挙げる向きもあるが、見方は分かれている。
「先行投資」の位置づけ
50万円超という価格帯のデバイスが市場で爆発的に売れると、アップル自身も当初から想定していなかったとみられる。Vision Proは未来を見据えた先行投資の性格が強く、最先端のチップやセンサーを惜しみなく搭載した結果として、現在の価格設定に至ったとの分析が一般的だ。
市場投入の主眼は、現時点で最高水準の没入体験を提示し、アプリやサービスの開発者を自社プラットフォームに引き寄せておく点にあるとみられる。小型・軽量化した「Apple Vision Air」のような後継機が短期間で投入される可能性は低く、米メタが手掛けるようなスマートグラス型への路線変更を模索している可能性も指摘されている。
浮上する「カメラ付きAirPods」構想
一方、市場関係者の関心を集めているのが、ワイヤレスイヤホン「AirPods」の進化である。かつて「AirPodsにカメラを搭載する」との観測が一部で流れた際には現実味を欠くとの受け止めが多かったが、状況は変わりつつある。
今年のモバイル世界会議(MWC)では、米クアルコムのブースで、カメラ内蔵の「スマートヘッドフォン」のデモ展示が行われた。カメラが捉えた被写体を人工知能(AI)が解析し、翻訳結果やレシピなどを音声で利用者に伝える仕組みだ。デモは大型のヘッドフォン形状だったが、これがワイヤレスイヤホンに置き換わった場合、装着シーンに自然さが生まれるとの指摘がある。
スマートグラスに残る課題
業界全体ではスマートグラスの開発に経営資源を投じる企業が多い。しかし、デザイン上の制約や充電の煩わしさなど、普及の障壁は依然として高い。カメラ、ディスプレイ、バッテリーを一体化すれば、機器の大型化と重量増は避けられない。
その点、AirPodsへのカメラ内蔵というアプローチであれば、ハードルは限定的との見方が広がる。AirPodsは世界で最も売れているワイヤレスイヤホンであり、巨大なユーザー基盤を持つ。既存利用者の買い替え需要を取り込めば、「スマートイヤホン」という新市場が一気に立ち上がる可能性がある。
立ち上がりに時間を要するヘッドマウントディスプレイやスマートグラスよりも、すでにウェアラブル機器として定着したAirPodsの高度化に軸足を移す――。アップルが描く次の戦略は、そこにあるのではないか。